「Ruby なんて遅くて使えない」という意見が出ます。(昔、Java も似たようなことを言われましたっけ。)これに対して、Ruby 好きな人からは、「大抵の Web アプリではボトルネックは IO になるからアプリの言語は遅くても構わない」「CPU 時間よりも開発者の時間の方が重要」というような反論が展開されます。

Rails 厨にならないためにも、ここは Ruby に批判的な目を持って、この問題を考えてみたいと思います。

■ 前提
Ruby を採用するとなると Rails 絡みで Web アプリでしょうから、Web アプリについて考えてみます。(でも、DLR とか話に出てくるわけですから、クライアントで使う場合もそろそろ検証した方がいいと思いますけどね。)

■ Ruby は遅い
以下のサイトを見るとわかりますが、場合によっては、C 言語の数十倍から数百倍遅くなります。(Ruby 1.9/YARV が出てくれば、少しは事態は改善されるに違いない・・・と信じていますが。)

The Computer Language Benchmarks Game
http://shootout.alioth.debian.org/

本当に Web アプリでは言語の速度は問題にならないのでしょうか? Kodougu(Rails で開発している Web 上で動作するモデリングツール)で図を開く処理を計測してみました。Rails のログを見ると、サーバの処理時間のうち、40% は DB 待ちでした。一回のアクセスで、少なくとも数十の SQL が乱れ飛びます。html や javascript の生成は 40% 程度を占めています。残りは、フレームワークやコントローラで消費されています。(このログは、Rails がとっているログなので Rails の中しか計測されません。)

この手のアプリは、ネットワークがボトルネックになることが多いのですが、今回は ab(Apache Bench)を使って、並列性 1 でベンチマークをとっているので、ネットワークはそれほどボトルネックになっていないと考えています。(処理は重いので、CPU はいっぱいいっぱいでした。Kodougu がそこそこ人気が出たら、今のサーバは即パンクしますね。パンクすると困るのですが、人気が出なくても困るので・・・どうしよう。)

言語の処理速度は一概には言えないのですが、上記のベンチマークによれば、Python だと Ruby の 2 ~ 3 倍、Java だと 20 ~ 30 倍になります。たとえば、Kodougu をそのまま Java で実装すれば、パフォーマンスは今の 2.5 倍くらいにはなります。(プログラミング言語の処理速度の向上がそのままトータルなパフォーマンスには現れないところがミソです。)

もっとも、サーバを 3 台余分に準備すれば(運用コストはサーバ代、人手も合わせて年間 100 万増くらい?)、Ruby のままで同等のパフォーマンスを得られるということでもあります。最近のアプリはステートレスなので、台数はわりと簡単に増やせます。DB サーバは増やすのは難しいですが。

実際のところ、Web アプリはキャッシュを使ったりして高速化をするので、言語のパフォーマンスはアプリのトータルなパフォーマンスの中ではそれほど大きな位置を占めません。まじめに最適化してしまえば、Kodougu を Java で実装してもパフォーマンスは 20 ~ 30% 位の差しか出ないのかなと考えています。Kodougu はモデリングツールということもあって、Web アプリの中では例外的に計算的な(≒ Ruby に不利な)種類のアプリです。通常の Web アプリではもっと言語間の差が小さくなるんじゃないかなと感じています。

■ Ruby の生産性
以下のような意見があります。

日本 Ruby 会議 2007 の Dave Thomas のスピーチのログより

ある研究によれば、生産性はそれぞれのプログラマでそれぞれ違う。でも、あるプログラマに着目すれば、そのプログラマが時間あたりに書けるコードの行数は、プログラミング言語によらず決まっている、たとえば一年に50,000行なのだそうだ。行数が決まっていたら、どの言語で一番多くのことを達成できる?そう、Rubyだよね。



なるほど。そういう意味では、Ruby の生産性は高いです。通常、モデリングツールのコード行数は Java や C# で 10 ~ 100 万行程度(製品コードのみ)になります。Kodougu は 5000 行程度(製品コードのみ)です。Kodougu は Web であるがゆえに、機能的に優れた面とそうでない面とがあるので単純に比較することはできません。少なくとも生産性が 10 倍になることはありませんが、50 ~ 100% 程度の向上はあると思います。

(ただ、アプリの規模が大きくなればなるほど、Java でも Ruby でも変わらなくなる気がしますが。)

■ トータルなコストパフォーマンス
Java を使った場合と比較して、サーバ運用コスト増が開発費の 20% ~ 30% 位に収まってくれるなら、Ruby はアリだと私は考えています。保守フェーズに入ったら、サーバ運用コスト増がもっと大きくても大丈夫なんじゃないかとも考えています。

■ まよめ
さて、破滅的に遅い Ruby ですが、Web アプリで Ruby が許される本当の理由は、Web アプリの負荷の質にあります。たとえば、ゲームのリアルタイム 3DCG の処理を Ruby で書くのは自殺行為です。こうしたアプリは常に CPU に負荷をかけるアプリです。(CPU でやらせること自体が自殺行為といううわさもありますが。)Web アプリは、動的コンテンツとの割合次第ですが、キャッシュなどを仕掛ければ、たまに CPU に負荷がかかるけど、いつもは比較的 CPU が暇なアプリに分類されます。今のところ、Ruby はそういう負荷の質を持った用途で使うべきものです。

クライアントでも、Ruby が使えるかどうかの判断基準は、結局負荷の質をどうとらえるかという問題に落ち着くのかもしれません。ただ、総じていうと、サーバの CPU はいつもそこそこ忙しいですが、クライアントの CPU はいつも暇です。ゲームとかやってない限り。CPU の高速化に伴い、多くの処理が負担でなくなってきていることも事実です。Web アプリのクライアントが JavaScript でも書けることから、クライアントで Ruby が活躍できる範囲はむしろ大きいのではないかなと感じています。

そうそう、Twitter もRails を使っているそう(参考)です。リクエスト数が多そうなサービスなので、Rails を使うのはチャレンジャーだと思うのですが、意外といけているようです。凄い・・・。

Posted by あかさた
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